日本経済の動き 2010年2月号

アジア経済圏構想のゆくえ

昨年、米国の金融機関の破綻した数は、140行 以上といわれている。スクラップ・アンド・ビル ド、ダメな企業はどんどん倒産、整理させ、新し い勢いのある企業や産業を残し、育成、支援する。 それが長い間の米国の流儀だった。自然淘汰、適 者生存原理である。社会的影響や雇用の確保、連 鎖倒産を防ぐために、破綻企業に公的融資や金融 機関の支援でできるだけ、企業を破綻させない日 本のやり方とは対照的であった。

そんな米国式破綻処理が、ここ数年大きく変化 している。大銀行や証券会社、保険会社、米国一 の企業GMの破綻とあまりにも数も規模も膨大で、 放置するには、社会的影響が大き過ぎるからであ る。しかも、その原因の多くは「つくった」り、 「売った」り、「サービス」をしたりという正業 での失敗ではなく、「マネーゲーム」のなれの果 てなのである。製造業、販売業、サービス業は、 多くの人手を必要とし、雇用という国家経済に大 きく貢献してきたのである。「マネーゲーム」は ごく少数の者が、カラ取引や借金で巨額の富を得、 それが失敗に終わった時は、ドロンを決め込むと いう博打打ちも顔負けの行為が、むしろ頭のいい 人のやり方と称賛さえされてきたのである。

正業ではなく虚業、投資ではなく投機。それが 持て囃される社会は、もちろん正常であるはずは ない。本来なら、公的資金で救済することは絶対 に許されないはずである。しかし、あまりにも高 額で多方面に広く、大きく影響するために、米国 政府も救済せざるをえないのである。

日本では、JAL日本航空をめぐって、法的整 理にするべきか、私的整理にするべきか、と政府 を悩ましているが、どちらにしても救済されるこ とは確実なので、関係者には危機感がない。救済 側も公のカネなので、真剣さが薄い。債権放棄や 棚上げを強いられる企業のことよりも、破綻企業 に手厚いのも納得がいくものではない。場合によ っては、破綻企業が身軽になって、短期間で復活 し、ライバル企業や競合企業を圧迫する恐れもあ るのである。たとえば、破綻したがゆえに公的支 援で回復した場合の日本航空と、正常であるがゆ えに厳しい経営を強いられる全日空や他の航空会 社との比較問題である。

会社更生法によって蘇った大会社の裏に、債権 放棄や棚上げで苦境に立たされた企業は少なくな いからである。

あれほど日本式を批判していた米国が、日本以 上に日本式救済政策をとったように、「終身雇用 制度」や「企業別労働組合」など労働慣習にも関 心がもたれている。

自由競争と、それに敗れた敗者を福祉という形 で、富める者からは高額の税金、貧しい者には福 祉と、両者が共存していける社会をめざした米国 も、雇用に結びつかない「マネーゲーム」の横行 で、社会そのものを混乱させてしまっている。

凋落する米ドルに代わり、「人民元」を国際基 軸通貨にするべく野望に向かっている中国は、世 界中の「金」を買いあさって「金本位制度」にす るべく、着々と駒を進めている。「人民元」の影 響が国際社会で強くなるにつれて、貧富の差が激 しくなる「人民」の不満は増す一方で、農村での 暴動も見逃せない状況になっている。「都市戸籍」 と「農村戸籍」では、健康保険、年金制度などで 大きな差があり、携帯電話やパソコンの普及で情 報が多くなり、これまた農民と都市生活者の対立を 深めている。米国抜きのアジア経済圏構想を進め ようという日本政府は、この実態をよく見つめる 必要がある。その手本となるEU、ユーロも破綻 の危機を迎えている。経済格差も少なく、宗教、 文化も古くから共有しているEUが、今経済危機 に直面しているのは、各国それぞれに政治と経済 の問題を抱えているからである。それは、各国が 独自の金融政策が取れないことが大きなネックに なっているからである。景気対策は、政府の財政 政策と中央銀行の金融政策が、一体となって推進 するものである。金融政策は原則として、EUが きめているために、適切な景気対策が打てないの である。今年は米国、中国、EUの正念場である。


(経済評論家 田中 満)

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